STA★AT PITCH REPORTAGE

スタ★アトピッチルポVOL.2

権限委譲、資金調達
事業に弾み

KAPOK JAPAN 深井喜翔最高経営責任者(CEO)

 KAPOK JAPAN(大阪府吹田市)は木の実「カポック」の繊維を活用した服の製造を手掛ける。用途が乏しかった植物素材を有効活用できるようにしたビジネスモデルが評価され、2020年度の第2回スタ★アトピッチでアトツギベンチャー賞を受賞した。深井喜翔最高経営責任者(CEO)は「事業が世の中に認められ、権限委譲や資金調達が進んで事業に弾みがついた」と話す。

深井喜翔さん
▲深井CEOはカポック素材をシート状の製品に
することに成功した

持続可能な素材、カポックに着目

 カポックは各地の熱帯などで自生したり栽培されたりする木で、長さ15~20センチメートル前後の実がつく。実の中には種を包むように綿のような繊維がびっしり入っている。触ってみると羽毛のように軽く柔らかな手触りだ。繊維は重さが同じ容積の木綿の8分の1で、吸湿性も発熱性も高い特徴がある。栽培で化学肥料を使わずに済み、実だけを採るので伐採も不要だ。ただ、繊維が短すぎて糸への加工は不向きで「枕の詰め物などに用途が限られていた」(深井CEO)

▲カポックシートを保温用素材として使ったコートなどを販売している

 アパレルメーカー、双葉商事(大阪府吹田市)の後継者でもある深井CEOは、サステナブル(持続可能)な素材でもあるカポックを使った服をつくる新規事業を検討。2018年から大手繊維商社やカポック原産地のインドネシアの研究機関と研究開発を進めた。糸にするのはやはり難しかったが、コートやジャケットなどに保温用の素材として入れ込める、シート状の製品を作ることに成功した。19年にまずクラウドファンディング(CF)を行い、予想の2倍以上の約1700万円の資金を集められたことで、事業化への手応えも感じられた。

世界を見据えた素材ベンチャー目指す

 同年から双葉産業の電子商取引(EC)サイトで販売を開始した。20年には同事業を双葉産業から切り離し、深井CEOが全額出資してKAPOK JAPANを設立した。品目数はコート、ジャケット類を中心に約20種類、価格帯は3万~28万円だ。想定通りサステナブルな素材を使っていることが注目され、累計約5万着を販売したという。大手スポーツウエアメーカーとは原材料にカポックシートを使ったブルゾンを共同開発した。

 深井CEOは大手繊維商社を経て家業である双葉商事に入社した。「安く大量生産する現在の事業だけでは50年後に生き残れない」と、伸縮性の高い看護服の製品化を手掛けて成功。「高価格でも潜在需要に合う付加価値の高いものであれば売れる」と新規事業立ち上げのコツをつかんだ。カポック素材は繊維製品の品質管理ノウハウを学んだ際に知り、いつか製品化したいと考えていた。在籍した大手繊維商社との人脈、双葉産業の生産管理ノウハウの高さなどを生かして製品化にこぎ着けた。

 「世界にサステナブルな材料を使った服を届けるのが使命と考えている。他にも十分に活用されていない素材を見いだし『素材ベンチャー』を目指したい」と、新たな素材の開発にも意欲をみせる。スタ★アトピッチへの参加は事業承継支援団体からの勧めがきっかけだ。アトツギベンチャー賞を受賞後は「新規事業だったカポック事業について社内評価が高まり、権限が自分に委譲された」という。資金調達にもプラスの影響が出た。事業計画書に受賞歴を書くことで、金融機関の融資も受けやすくなった。深井CEOは「事業をサポートしてくれていることが実感できる」と話している。

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