STA★AT PITCH REPORTAGE
スタ★アトピッチルポVOL.3
大手からの引き合い増加
Aster 鈴木正臣最高経営責任者(CEO)
Aster(アスター、東京・中央)は耐震性を高める塗料を手掛ける。れんが造りなど柱のない構造の建物も倒壊しにくくする。2021年度の第3回スタ★アトピッチでは、全世界で広く需要が見込める技術と評価され、グランプリを受賞した。鈴木正臣最高経営責任者(CEO)は「大手企業やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)からの引き合いが多くなった」と受賞の効果を指摘する。
「震度7の揺れに2度耐えられる」塗料
組積造はれんがや石、コンクリートブロックを積み重ねただけの建築構造をいい、世界の建物の6割を占めると言われる。柱を使った構造に比べ、建築コストが安いが揺れにはもろい。Asterの塗料は組積造の壁に塗るだけで「震度7の揺れに2度耐えられる」(鈴木CEO)のが特徴だ。
塗料の中には微細にしたガラス繊維が混ざっている。粘着力が強い塗料の樹脂成分に引っ張り強度が高いガラス繊維が混ざると、塗料全体が引っ張られる力に強くなり、ゴムのような役割を果たす。塗料がれんがやブロックを互いにつなぎ留め、倒壊しにくくする。
製造過程は独自に工夫しているが、塗料樹脂やガラス繊維は容易に手に入る原材料を使っている。施工もペンキなどと同じようにローラーで塗るだけで済む。鈴木CEOは「安くて誰でもどこでも施工できる塗料にすることが、世界に普及するカギを握る」とみる。
塗料のもとになったのは、コンクリートの崩落を防ぐ改修用の材料だ。実家が建物改修工事や改修用製品の製造を手掛ける会社を経営。鈴木CEOが同社在籍当時、主導して材料を開発した。
東大研究会メンバーとAster設立
他の用途にも使える可能性を考えた知人の紹介で、鈴木CEOは都市部地震の減災を専門とする東京大学の研究会に参加。用途を耐震補強材にも広げるため同研究会のメンバーと研究を進め、実用化へのメドをつけた。
19年には「スタートアップとして事業を進めるためには、起業するしかない」と実家の会社を退き、研究メンバーらとAsterを設立した。
国内では台風による暴風被害も多い沖縄県で、実用化に向けた実験を進めている。海外ではコンクリートブロックの組積造の建物が多いフィリピンで、学校の耐震補強材として商談を進めており、海外で最初の案件となる可能性がある。
耐震補強材としての需要は日本国内でも高そうだが、海外での事業展開を優先したい考えだ。「日本は建物の構造が強く、震度5で命が奪われることは少ない。海外では震度3でも建物が崩れることがある」ためだ。
スタ★アトピッチへの出場を決めたのは、開催の記事が出ているのを度々目にしたためだ。ほかのピッチにも出場経験があったが「新聞自体多くの経営者が見ている。資金調達の機会を増やす上でも参加するのに価値がありそう」とみた。
グランプリ受賞後は事前の期待を実感することになった。知名度が向上し「大手の商社、建材会社、化学品会社やCVCから様々な提案を持ち掛けられるようになった」
従来のピッチ以上にプレゼンテーションに力を入れるため、他の起業家や広告会社から動画や資料作成の助言を受けた。その結果、自社PRのスキルの向上にもつながったという。